新敬語「マジヤバイっす」に学ぶ!社会言語学から紐解く、アジャイルなチームの距離感の縮め方
はじめに
こんにちは。株式会社メンバーズでスクラムマスターをしている小島です。
突然ですが、皆さんはSlackなどのやり取りで「ある違和感」を覚えたことはないでしょうか。
私たちは日常的に社内やクライアントとの間で大量のメッセージをやり取りしています。その中で、ふと「あれ、なんか硬いな」「よそよそしいな」と感じることはありませんか?
例えば、いつも一緒に作業を進めるチームメンバーに対して以下のようなSlackメッセージを送る状況を想像してみてください。
このメッセージのやり取りはとても丁寧ではありますし、敬意も十分に感じられます。しかし、普段接する機会の多いメンバー同士のやり取りとしては少し違和感があるのではないでしょうか。
なぜ、このような丁寧なメッセージが違和感を生じさせるのか? 実はこの違和感の背景には、現代における「敬語」の捉え方が隠されています。
今回は、私が大好きなPodcast「ゆる言語学ラジオ」での敬語に関する興味深い議論『「っす」は失礼じゃない。むしろ神。』と、その番組の種本となっていた書籍『新敬語「マジヤバイっす」: 社会言語学の視点から
』からヒントを得て、現代の敬語が持つ「2つの軸」と、仕事の中で関係性を深める上で不可欠な「距離感」の表現について深掘りしていきたいと思います。
日本語は「親しい丁寧さ」を表現するのが難しい
敬語とは、話す相手や話題の人物に対して「敬意(相手を大切に思う気持ちや立てる気持ち)」や「配慮」を表す言葉遣いのことです。日本語では「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種に分類することができます。
尊敬語: 相手や話題の人物を高めて敬意を表す表現
例:行く ➔ いらっしゃる、おいでになる / 言う ➔ おっしゃる / 見る ➔ ご覧になる
謙譲語: 自分や自分の身内(家族や自社の社員など)の立場を低く(へりくだって)表現することで、相対的に相手を高める表現
例:行く ➔ 伺う、参る / 言う ➔ 申し上げる、申す / もらう ➔ いただく
丁寧語: 言葉を美しく整え、聞き手に対して丁寧な態度を示す表現
例:だ・である ➔ です・ます / 行く ➔ 行きます / 食べる ➔ 食べます
私たちはこれらの敬語を「相手への敬意の有無」によって使い分けている、というのが一般的な感覚だと思います。尊敬する人に対しては敬語を使い、そうでない人には普通の言葉(タメ口など)を使う、という使い分けです。
しかし「ゆる言語学ラジオ」で紹介されていたのは、私たちは「相手への敬意の有無」という軸に加えて、もう1つの重要な軸である「相手との心的距離の近遠」を掛け合わせて考えている視点でした。
つまり私たちは無意識のうちに、相手への「敬意」と「心的な距離」という2つの軸を用いて言葉を選び、コミュニケーションを使い分けているのです。
この2軸で敬語を考えると、日本語のコミュニケーションにおける一つの大きな課題が浮かび上がります。
それは、「相手に敬意を示しつつ、その相手との距離も近いよ」という関係性を表現するための、適切な「敬語の表現」が従来の日本語には不足していた、という点です。
心的距離 = 近い | 心的距離 = 遠い | |
敬意あり | ?(従来の日本語では不足) | 丁寧体(です・ます) |
敬意なし | 普通体(タメ口) | 普通体(タメ口) |
引用・参考:『新敬語「マジヤバイっす」: 社会言語学の視点から』
p.70「表2-5 聞き手への敬意のあり/なし、聞き手との心的距離の近い/遠いに対応した丁寧体と普通体の使用可能性」より作成
敬意と親しさを両立させる「っす」の役割
このギャップを埋めるために生まれたのが、近年よく使われるようになった「〇〇っす」という表現だそうです。
例えば、「お疲れ様です」は非常に丁寧な表現ではありますが、心的距離で言うと「遠い側」に位置づけられます。これに対し、「お疲れっす」は、敬意を保ちながらも、相手との距離が近いことをうまく表現するための言葉として機能している、というのです。
この表現は、特に「運動部(体育会系)」のコミュニティで生まれたとされています。
運動部の世界では、先輩に対して当然敬意を示す必要がありますが、同時に距離が遠いままだと密な連携が取れず、チームのパフォーマンスも高まりません。そこで、「しっかりと敬意を示しつつ、ちょっとだけ崩す」というコミュニケーションが必要となり、「〇〇っす」という表現が生まれたわけです。
「〇〇っす」は、敬意と距離の近さを両立させる、現代日本におけるコミュニケーションの知恵と言えるかもしれません。
違和感の原因は「距離感の遠さ」にあった
この2軸の考え方を冒頭のSlackメッセージに当てはめて考察してみましょう。
このメッセージはしっかりと敬語が使われており相手に対する「敬意」は間違いなく示せています。しかし、この言葉遣いは2軸の図で言うと「敬意はあるが、距離が遠い」領域のコミュニケーションになっています。
仕事上のコミュニケーションにおいては敬意はもちろん大切ですが、距離感が近く気軽にコミュニケーションがとれることも同様に重要です。
そのため、普段から一緒に働くメンバーに対して「距離が遠いですよ」というメッセージを発してしまうと、受け手に「なんだかよそよそしいな」「硬すぎるな」という違和感を与えてしまうのです。
いつも同じ時間を過ごすメンバーであれば、もう少し砕けた表現で親近感を伝えるほうが自然だと考えられます。
「っす」から考える良い関係を作るコミュニケーション
この「敬意」と「距離感」のバランスは、VUCAと呼ばれる変化の激しい現代において、より重要性を増しています。
正解のないVUCAの時代では、変化に対してチームが迅速に課題を共有し、柔軟に軌道修正していくことが求められます。そのためには、メンバー同士が萎縮せず率直に意見を言い合える「心理的安全性」が不可欠です。Googleが実施した労働生産性向上のための研究「プロジェクト・アリストテレス」でも、効果的なチームを作るために最も重要な要素として、この心理的安全性が挙げられています。
私たちは、仕事で付き合うあらゆる相手に対して最大限の敬意を払う必要があります。しかし、そのバランスがうまく取れないと、つい心理的距離を遠ざけてしまう言葉遣い、つまり前述のSlackのような非常に硬いコミュニケーションをしてしまうリスクがあります。
相手との関係性は日々のコミュニケーションの積み重ねによって作られます。常に距離の遠い言葉遣いをしていては、深い信頼関係や親近感は生まれにくいでしょう。
私たちが意識的に行うべきは「相手に敬意を示しつつ、心的距離の近さも示す」コミュニケーションを実践することです。
個人的な経験からも、この領域のコミュニケーションを意識して取るようにしたことでチームや周囲との関係性がスムーズに構築されてきたと感じています。
敬意の中に親しみを込める具体的な表現の工夫
ここまではPodcastの内容をもとに「っす」の有用性について話をしてきましたが、ビジネスの場では「〇〇っす」をそのまま使うのが難しい場面もありますよね。しかし、他にも敬意を保ちながら距離の近さを表現する方法はたくさんあります。
Slackなどのテキストコミュニケーションにおいて、私が個人的に意識して実践している例をいくつかご紹介します。
びっくりマーク(!):
単なるテキストに「!」を加えるだけで、少し感情が入り、柔らかさや前向きな親近感が生まれます。語尾に「〜」をつける:
例えば「考えています。」よりも「考えています〜」のほうが表現が少し柔らかくなり、敬意を残しつつも親近感を表現できると感じています。絵文字や顔文字の使用:
適切な場面で絵文字や顔文字を使うことで、テキストに温かみや人間味が加わり、敬意に加えて心理的な距離の近さを表現することができます。
また、こうした工夫はテキストだけにとどまりません。私自身、ファシリテーションをするときにも、意図的に言葉遣いを崩すことで、より活発な議論を促すようにしています。
以前、私が執筆した記事『「放課後の教室」みたいな場をつくるために。私が実践しているファシリテーションの11のポイント。』でも、以下のようなポイントを紹介しました。
言葉遣いを崩す
これも小さな心がけですが、できるだけ言葉遣いを崩してコミュニケーションをとるようにしています。特にクライアント相手だと無意識に丁寧すぎるコミュニケーションになりがちですが、それが積もり積もって壁になってしまうこともあります。
「〇〇さん、ナイスです!」
「それめっちゃいいですね!」
「これ激ヤバですね」
「何が原因なんすかね〜これ。」
「とりあえずやってみましょ!!」こういった言葉を使うことで心理的な距離を縮め、よりフランクな対話が生まれることがあります。この辺は自分の中にもギャルマインドが侵食しているのかもしれないです。
これらは非常に小さなことかもしれませんが、積み重ねることで相手との関係性に大きなプラスの影響を与えると思っています。
特に日本文化の中では、こうした「ポライトネス(人間関係を円滑にするための丁寧さ)」に関する表現が重視される傾向があり、それを裏付ける背景理論(ポライトネス理論など)も存在します。
社内やクライアントとのコミュニケーションにおいて、私たちは単に「正しい敬語」を使うだけでなく、「相手との適切な距離感」を表現できているかを常に意識することが、非常に重要になってくるでしょう。
まとめ
現代のコミュニケーションにおいて、敬語はもはや「尊敬の度合い」だけを表現するものではなく、「相手との距離感」を暗に伝えるものとなっています。
この「敬意と距離感の二刀流」を使いこなすことが、強い信頼関係、ひいてはフラットで強固な仲間としての関係性を実現する鍵を握っていると言えるのではないでしょうか。
日々の小さなコミュニケーションの中で、意識的に「少しだけ距離を縮める」工夫を取り入れることが、関係の質を高めるための第一歩になります。
ぜひ、明日の言葉遣いから少しだけ意識してみてはいかがでしょうか?
この記事を書いた人
関連記事
- みんなでつくる!チーム開発の始め方とコツ
青木 美将
- 社内ラジオから社外ポッドキャストへ。スクラムマスターが始めた...
BEMALab 編集部
What is BEMA!?
Be Engineer, More Agile


