プラットフォームエンジニアリングとは?DevOps・SREとの違いと生成AI時代の重要性を解説
はじめに
こんにちは、株式会社メンバーズでインフラエンジニアをしている野瀬です。
今回は「プラットフォームエンジニアリング」とは何か、について基本的な考え方から、関連する概念との違い、そして生成AI時代における位置づけまでを解説していきます。
インフラエンジニアの方はもちろん、マイクロサービス化やクラウドネイティブ化で複雑化したインフラ整備に課題を感じている開発者の方にも役立つ考え方だと思うので、ぜひ読んでいただけたらと思います。
プラットフォームエンジニアリングとは
概要
一言でいうと、プラットフォームエンジニアリングとは、「開発者が本来やるべきこと(ビジネスロジックの実装)に集中できるように、インフラやツールをセルフサービスで使える『プラットフォーム』として整備する取り組み」です。
ざっくりしたイメージ図(by Notion AI)
もう少し噛み砕くと、次のような考え方です。
開発者「サービスを作りたい!」
↓
開発者「本来やりたいこととは関係のない作業(インフラの設定、CI/CDパイプラインの構築、監視の設定、セキュリティ要件の確認など)が多すぎる!><」
↓
プラットフォームエンジニアリング「これらの作業をあらかじめ整えた"型"としてセルフサービスで提供し、数クリックやワンコマンドで完了できるようにしよう」
↓
開発者「サービス開発に集中できてHAPPY!」
具体的には、開発者が新しいアプリケーションを作りたいと思ったときに、プラットフォームを通じて次のようなものが自動で(あるいは数クリックで)準備される、というイメージです。
ネットワークやコンピューティングリソースなど、インフラの土台
あらかじめ組織のベストプラクティスに沿って設定されたサーバーやコンテナ環境
ログ管理・監視の仕組み
アプリをデプロイするためのCI/CDパイプライン
その他、組織で標準化されたセキュリティ設定やガードレール
なお、このプラットフォームを作り、提供する側のチームは「プラットフォームチーム」と呼ばれることが多く、自分たちのプラットフォームを社内向けの1つのプロダクトとして捉え、開発者を「利用者」または「顧客」として扱う姿勢が重視されます。単にインフラを整備するだけでなく、「使ってもらえるかどうか」まで含めて責任を持つ、という点がポイントです。
私がこの考え方に興味を持ったのは、「開発者のためにインフラ環境や監視の仕組みなどを整えてあげる」といった、インフラエンジニアとしては「よくある仕事」を型として提供してあげることで開発者全体が楽になる考え方だと思ったからです。
プラットフォームエンジニアリングが注目される背景
マイクロサービス化で複雑さが増した
以前は、1つの大きなモノリシックなアプリケーションを作り、それをデプロイすればよいケースが多くありました。しかし、スケーラビリティや開発の独立性を求めてマイクロサービス化が進んだ結果、1つの組織が数十〜数百のサービスを運用することも珍しくなくなりました。
サービスの数が増えるということは、それぞれにCI/CD、ネットワーク設定、監視、ログ収集、権限管理などが必要になるということです。以前は「デプロイすればよかった」ものが、今では「デプロイするために整えなければならないことが山積み」になってしまいました。
次のような流れは、あるあるではないでしょうか。
新しいマイクロサービスを1つ立ち上げたいだけなのに、まずネットワークチームにVPC設定を依頼し、DBチームにデータベース作成を依頼し、SREチームに監視設定を依頼し、セキュリティチームに権限レビューを依頼する。それぞれの対応を待つうちに、実際にサービスが本番稼働するまで3週間かかった……。
このような「コードは書き終わっているのに、実際に価値を届けるまで時間がかかる」という状況こそ、プラットフォームエンジニアリングが解決しようとしている大きな課題です。
「作った人が運用もする」の限界
DevOps文化が広がる中で、「開発したチームが自分たちで運用まで面倒を見る」という思想("You build it, you run it")が理想として語られてきました。しかし、システムが複雑になるにつれて、1つの開発チームがコード、インフラ、セキュリティ、監視までをすべて把握することは難しくなっています。
これは、認知負荷(cognitive load)の問題として整理されます。開発チームが抱えられる認知負荷には限界があり、それを超えると生産性やモチベーションが低下すると指摘されています。
プラットフォームエンジニアリングは、この認知負荷の一部をプラットフォームチームが肩代わりすることで、開発チームが本来の仕事に集中できるようにする、という発想に基づいています。
有名企業の先行事例
Spotifyが社内向けに作ったオープンソースの開発者ポータル・フレームワーク「Backstage」は、この分野でよく引き合いに出される事例です。Backstage自体はIDPそのものというより、サービスカタログやテンプレート、ドキュメントなどを集約するポータルを作るための土台と捉えるとわかりやすいです。Spotifyは急拡大する中で、開発者体験がチームごとにばらつくという課題に直面し、それを解消するための社内ポータルとしてBackstageを生み出しました。
また、Netflixが提唱した「Paved Road(舗装された道)」——推奨される技術スタックやテンプレートに沿えば、誰でもスムーズに開発・デプロイできるという考え方——も、プラットフォームエンジニアリングの源流としてよく引用されます。
こうした流れもあり、2022年頃から「プラットフォームエンジニアリング」という言葉自体が急速に注目を集めるようになりました。Gartnerは、2026年には大規模なソフトウェアエンジニアリング組織の80%が、アプリケーション提供のための再利用可能なサービス・コンポーネント・ツールを提供するプラットフォームチームを設置すると予測しています。
IDPとは
IDP(Internal Developer Platform:内部開発者プラットフォーム)は、プラットフォームエンジニアリングという考え方を具体的に実現するための仕組みや基盤です。
開発者に見える入り口としてポータルがあり、その裏側にインフラ自動化、CI/CD、権限管理、監視・ログ、セキュリティチェックなどがつながっている、という構成で考えるとイメージしやすいです。
IDPには、一般的に以下のような要素が含まれます。
セルフサービスポータル:開発者が自分でリソースを作成・管理できるUI(例:Backstage)
サービスカタログ:組織内にどのようなサービスがあり、誰が管理しているのかを一覧できる機能
Golden Pathのテンプレート:新しいサービスを作るときのひな形(CI/CD設定、監視設定などを含む)
APIやCLIによるプロビジョニング:インフラをコードやコマンドから自動で作る仕組み
「プラットフォームエンジニアリングをする」ということは、必ずしも特定のツールを導入することを意味するわけではありません。組織として開発者体験を継続的に良くしていく文化や体制を作ることが本質であり、IDPはそのための手段の1つと捉えるとわかりやすいでしょう。
他の考え方との関係(DevOps/SRE)
プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsやSREと混同されることがありますが、それぞれ重視する観点が異なります。
DevOps
DevOpsは、「開発(Development)」と「運用(Operations)」の壁をなくし、両者が協力して速く・安定的にソフトウェアを届けるための文化・思想です。非常に重要な考え方ですが、「具体的にどう実現するか」という方法論は組織ごとに異なり、曖昧になりがちでした。
プラットフォームエンジニアリングは、このDevOpsの理想を実現するための具体的な実装手段と捉えることができます。「開発と運用が協力しよう」という考えを精神論で終わらせず、セルフサービス基盤という形に落とし込んだもの、というイメージです。
SRE
SRE(Site Reliability Engineering)は、Googleが提唱するシステム運用の方法論です。
SLO(Service Level Objective:サービスレベル目標)を設定し、レイテンシ、スループット、エラー率、可用性といった指標を使って、システムが安定的に稼働しているかを測ります。また、許容できる信頼性低下の範囲として「エラーバジェット」を設け、それを使い切りそうな場合は新機能開発よりも信頼性改善を優先する、といった考え方によって信頼性を定量的に管理します。
SREがソフトウェアのパフォーマンス、信頼性、スケーリングを重視するのに対し、プラットフォームエンジニアリングは、開発者の効率や使い勝手を高めるための仕組みに重点を置きます。
生成AI時代におけるプラットフォームエンジニアリング
最後に、最近の生成AIの発展とプラットフォームエンジニアリングの関係について触れておきます。
ボトルネックが「コードを書く」から「本番に届ける」へ移ってきた
GitHub CopilotやClaude Codeといったツールにより、コードを書く速度は大きく向上しました。しかし、コードを速く書けても、それをデプロイして安全に本番で動かすまでのプロセスが従来のままだと、全体のスピードはそれほど変わりません。
つまり、AIによってボトルネックの位置が「コードを書く工程」から「コードを本番に届ける工程」へ移りつつあるということです。この文脈で考えると、セルフサービスで安全なデプロイ基盤を提供するプラットフォームエンジニアリングの重要性は、むしろ増していると言えます。
AIエージェント自身が「プラットフォームの利用者」になっていく
これまでプラットフォームを使うのは、主に「人間の開発者」でした。しかし、AIエージェントが自律的にコードを書き、インフラをプロビジョニングし、デプロイまで担うようになると、AIエージェントもまた「プラットフォームの利用者」の一員になっていくはずです。
そうなると、Golden PathやセルフサービスAPIは、人間にとってわかりやすいだけでなく、AIエージェントが構造的に理解し、安全に操作できる形で設計されていることが重要になります。明確なスキーマを持つAPIや、振る舞いが予測しやすいCLIツールは、人間にもAIにも使いやすい基盤の条件と言えます。
IDP自体にAIが組み込まれ始めている
BackstageをはじめとするIDPツールにも、自然言語でやり取りできるAIアシスタント機能を組み込む動きが出てきています。「新しいサービスを作りたい」と自然言語で伝えるだけで、適切なテンプレートを提案してくれる——そんなインターフェースが、今後は当たり前になっていくかもしれません。
まとめ
プラットフォームエンジニアリングは、マイクロサービス化やクラウドネイティブ化によって複雑になったシステム運用の中で、開発者の認知負荷を下げ、生産性を高めるための実践的なアプローチです。
DevOpsの理想を具体的な基盤として実装し、SREと補い合いながら、組織の開発体験を継続的に良くしていくこと。それが、プラットフォームエンジニアリングの本質だと言えます。
生成AIによって開発スピードがさらに加速していく今、「コードを書く力」だけでなく、「それを安全かつ速く届ける仕組み」を構築するプラットフォームエンジニアリングの重要性は、今後ますます高まっていくと思います。この機会に、ぜひ皆さんも開発者体験向上に目を向けてみてください。
参考サイト
プラットフォームエンジニアリングの基本・概念
Gartner:プラットフォーム・エンジニアリングとは何か
— プラットフォームエンジニアリングの概要や注目される背景を解説しているGartner Japanの記事
Gartner: Unlock Infrastructure Efficiency with Platform Engineering
— プラットフォームチームの普及予測やインフラ効率化の観点から紹介しているGartnerの記事
Red Hat:Platform Engineering と DevOps の違い
— プラットフォームエンジニアリングとDevOpsの違いや関係性を整理しているRed Hatの記事
社内開発者プラットフォーム(IDP)・ツール
Google Cloud:社内開発者プラットフォームとは
— IDPの定義、主要コンポーネント、開発者ポータルとの違いなどを解説しているGoogle Cloudの記事
Internal Developer Platform
— IDPの概念、構成要素、関連ツールなどを整理しているコミュニティサイト
Backstage.io
— Spotify発、CNCFに寄贈されたOSSの開発者ポータルフレームワーク
先進企業の事例・プラクティス(Spotify / Netflix)
Backstage 101(Spotify)
— SpotifyがBackstageを生み出した経緯や社内開発者ポータルとしての役割を紹介している記事
Full Cycle Developers at Netflix(Netflix Tech Blog)
— Netflixの「Paved Road」や、開発者が設計から運用まで担う考え方について紹介している記事
SRE(サイト信頼性エンジニアリング)
Google Cloud: Site Reliability Engineering (SRE)
— GoogleによるSREの定義や原則を解説しているページ
Google SRE Book
— SREの概念や実践方法を体系的にまとめた書籍を公開しているサイト
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